~「LDLコレステロール異常症」という考え方~

コレステロールと聞くと、どのようなイメージがあるでしょうか?
脂肪の中にある、多いと良くない、良いのと悪いのがある・・・等々
血液検査の結果で中性脂肪やコレステロールの値を見ても、ぼんやりとしたままではないでしょうか。

① そもそもコレステロールとは何なのか
② 何が悪いのか
③ 悪いとどうなるのか
④ 良い悪いがどうやって分かるのか
⑤ 良い状態にするにはどうするのか

よくよく考えると知らないことってたくさんあるのです。
コレステロールを知ることは、体の健康や病気のことが分かることにもつながります。
納得して健康管理、納得して病気の治療、そうなるための一歩を踏み出してみましょう!

 
 
 ① そもそもコレステロールとは何なのか 
細胞とステロイドの材料となる
細胞の細胞膜を作っている成分の一つです。体を構成する全ての細胞膜の構造が保たれ、強度が維持されます。
ステロイドの原料にもなっています。ステロイドは副腎皮質ホルモン、男性ホルモンや女性ホルモン、そして食事中の脂質の消化に欠かせない胆汁酸の原料です。特に、副腎皮質ホルモンはストレスから身を守ってくれる心強いホルモンです。
コレステロールを全く含まない食事をしても、1日に約800mgものコレステロールが生体内で合成されることが分かっています。私たちの身体はコレステロールがなければ生きていけません。
「リポ蛋白」になって血流を移動している
血液の中では、コレステロール単体では存在できません。中性脂肪(トリグリセリド)と一緒にいて脂質となっています。
しかし、このままの状態では、油が水に溶けないように、血液に溶けないのでアポ蛋白がまわりを取り囲んで血液に溶ける蛋白質の塊にしています。(右図)
この蛋白質の塊は、「リポ蛋白」と呼ばれています。
 
LDLとHDLはリポ蛋白の蛋白質の種類、中性脂肪とコレステロールの量の違い
LDLコレステロール、HDLコレステロールという名前を聞いたことがあるかもしれません。もっと分かりやすく表現してあると、悪玉コレステロールや善玉コレステロールと呼ばれているものです。
これらは、リポ蛋白の中の蛋白質の種類や中性脂肪とコレステロールの量の違いで分類されています。
■LDLは中性脂肪が多めで、コレステロールが少なめのリポ蛋白。
■HDLは中性脂肪が少なめで、コレステロールが多めのリポ蛋白。
もう少し踏み込むと、中性脂肪がLDLよりも多いIDLやVLDLというリポ蛋白もあります。(下図)

 
 

なお、リポ蛋白の中のコレステロールに関して注目している際に、LDLコレステロール、HDLコレステロールと言った表記を使っています。

 
② 何が悪いのか 
LDLコレステロールが敵?
コレステロールの一般的なイメージは動脈硬化を引き起こす“悪玉コレステロール=LDLコレステロール”のイメージが先行しています。
LDLコレステロールは肝臓から身体のすみずみの細胞へコレステロールを運ぶ役目をしています。これは材料となるコレステロールを必要なところへ移動させているのです。
身体のために働いているのですが、量が増えすぎてくるとやることがなくなったLDLコレステロールは活性酸素と出会ってしまい、酸化LDLコレステロールに変わることで悪さをすると考えられています。

HDLコレステロールはコレステロールの掃除係
HDLコレステロールは血液中や細胞が使用して余ったコレステロールを回収して、処理してくれる肝臓へ戻しています。
たとえLDLコレステロールが増えすぎたとしてもなんとかしてくれそうです。つまり、動脈硬化を進みにくくしてくれているので“善玉コレステロール”と呼ばれているのです。
しかし、HDLコレステロールが少なくなるとしたら・・・

本当の敵は他にいる
“超悪玉コレステロール”と呼ばれているリポ蛋白コレステロールがあります。LDLコレステロールがうまく処理されず血液中に残った残骸LDLコレステロール(レムナント様コレステロールとも言います)やIDLコレステロール、VLDLコレステロールなどが正体と考えられています。中性脂肪が多めで、ベタベタと血管の壁にくっつきやすい性質があります。
  これらはLDLコレステロールに紛れて正体を隠してしまいます。だからLDLコレステロールが敵だと思われてしまうのかもしれません。超悪玉コレステロールや酸化されたLDLコレステロールが悪いのであって、LDLコレステロール自身は何も悪いことをしていないのに・・・



 
 
③ 悪いとどうなるのか 
動脈硬化との関連
酸化LDLコレステロールの悪さは、血管の内側の壁を傷つけたりコレステロールの塊(プラーク)を作ったりすることです。その状態が続いていくと、血管の壁が厚く固くなってしまいます。さらに、超悪玉コレステロールが増えているとプラークがより大きくなりやすくなります。
これが「動脈硬化」と呼ばれる病気です。

動脈硬化が進んでいく先に
動脈硬化自体は痛くもかゆくもありません。だからといってプラークが大きくなっていくのを放置していると、結果として血管はふさがってしまいます。すると血液の流れがとまり、そのとまった場所で大変な恐ろしいことが起こるのです。心臓だと心筋梗塞、脳だと脳梗塞といわれればもうお分かりかと思います。自覚症状があらわれた段階で気づくのは遅すぎるのです。
気づくなら、血管が詰まる前?プラークがたまる前?悪いコレステロールが増える前?どのタイミングで気づいていた方がいいのでしょうか。一番早いタイミングが一番予防しやすく予防効果も大きいので、できれば悪いコレステロールが増える前に気づいていたいものです。

 
 
④ 良い悪いがどうやって分かるのか 
まずは血液検査でチェックしよう
LDLコレステロールが多いか少ないかなどは、血液検査をすることで分かります。健康診断でも必ずチェックされています。動脈硬化性疾患予防ガイドラインで基準値が決められていて、この基準値から外れていると「脂質異常症」という病気だと診断されます。(下表)
この検査によって、悪いコレステロールが増える前の早めのタイミングで気づくことができます。

LDLコレステロール 140 mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40 mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセリド(中性脂肪) 150 mg/dL以上 高トリグリセリド血症

以前は、高脂血症という病名が使われていました。低HDLコレステロール血症のように、高いだけの状態ではないということで変わってきたようです。

LDLコレステロールをもっとくわしく見てみる検査
リポ蛋白分画(ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)という血液検査で、当院ではこの検査をおすすめしています。これは、一言で言うと超悪玉コレステロールがあるかないかを調べています。
普通の血液検査では、LDLコレステロールやHDLコレステロールなどの量(血液の中にどれくらいあるか)を調べています。しかし、これだけでは超悪玉コレステロールは分かりません。超悪玉コレステロールはLDLコレステロールに紛れてしまって、検査結果としてはLDLコレステロールの量として出てしまうからです。
リポ蛋白分画という検査は名前のとおり、血液中にどのリポ蛋白があるのかを分けて調べています。量では無く質(種類の存在)を見ているのです。したがって、LDLコレステロールに紛れている超悪玉コレステロールを見分けることができるので、“LDLコレステロールをもっとくわしく見てみる検査”といえます。
当院で実際に行った検査結果の例をお見せします。(下図)患者Bさんからは、超悪玉コレステロールが多く存在していることが確認できます。これまでの経験から、超悪玉コレステロールがある人の方がより動脈硬化になりやすい傾向にあることが分かってきています。



LDLコレステロールの量が少なくても超悪玉コレステロールが多い人や、LDLコレステロールの量が多くても超悪玉コレステロールが少ない人がいたりもします。この結果を踏まえて、当院では薬を使うかどうかの判断の一つに利用しています。薬を使うと、患者Aさんのように超悪玉コレステロールが少ないパターンになることもあります。つまり、薬が効いているかどうかも確認できるのです。
このことから、超悪玉コレステロールを含むLDLコレステロールがある状態を「LDLコレステロール異常症」ととらえています。LDLコレステロール自体が悪者のように言われていますが、本当に悪なのは超悪玉コレステロールが含まれているときだと考えています。

<文献>
(1) S. Hosaka et al. Increased intima-mediathickness of the carotid artery in Japanese female type 2 diabetic patients with ‘midband lipoprotein’. Diabetea Research and Clinical practice 75: 333-338, 2007
(2) S. Hosaka et al. Early detection of atherogenic dyslipidemia by polyacrylamide gel electrophoresis in patients with type 2 diabetes mellitus. Clinica Chimica Acta 408:137-138, 2009

動脈硬化が進んでいないかも確認しておこう
超音波(エコー)を使った検査もおすすめしています。頚動脈といって、首の右側と左側にある血管の状態を見ることができます。血管の壁が厚くなっているかどうかを確認します。(下写真)患者Dさんは血管の壁が少し膨らんでいるところがあり、すでにプラークができ始めています。



頚動脈の血管から全身の血管の状態を予測できます。

 
 
⑤ 良い状態にするにはどうするのか 
食事は健康への近道
今の食生活を振り返ってみて、自分の身体に合っているという自信はありますか?食べたいだけ食べているな、好きなものばかり食べているな、なんて方が多いのではないでしょうか。
食事は身体にとって切り離せないもので、健康への近道であり、病気への入り口でもあるのです。 健康への近道を知っていれば、病気になる前の予防となり、病気になってからの治療にもなります。まずは近道のヒントだけでも知っておいてください。

■間食をひかえる
■栄養のバランスに気をつける
■外食よりも自炊の回数を多くする
もし、食事が病気の入り口となってしまったら、脂質異常症だけでなく糖尿病や高血圧などの生活習慣病をどんどん引き寄せてしまいます。

運動は歩くことから
食事で健康への近道が分かったとしても、じっとしていては健康へたどり着くことはできません。
身体を動かすきっかけとして、まずは歩くことを意識してみましょう。
■なるべく階段を使う
■週末などにウォーキングの習慣をつくる
■近場なら車を使わない
さらに、ラジオ体操・テレビ体操やプールでの水中歩行などの軽めの運動もよいでしょう。
毎日30分の運動を目標に続けていくことが理想です。
食事や運動に関してはまだまだ大切なことがたくさんあり、一度には伝えきれません。
そのため当院では、月1回日曜日に患者さんや一般の方向けの健康教室を開いております。
くわしい日時や内容などはホームページを確認して頂くかお気軽にお尋ねください。

薬での治療について
血液検査やエコー検査の結果を参考にして、薬が必要かどうか判断します。必要ならコレステロールを下げる作用のある薬を使いますが、治療の基本は食事と運動です。くわしいことは診察の際に説明します。

動脈硬化と糖尿病の関係
糖尿病があると動脈硬化になりやすいといわれています。糖尿病については「糖尿病について」のページをご覧下さい。血液中に増えた糖が血管を硬くしていくことが一つと、超悪玉コレステロールが増えやすくなっていることが原因です。
当院では糖尿病の専門治療を行っていますので、動脈硬化に関しても専門の一部として診療しています。

 
☆さいごに 
専門的なことも書きましたので少し難しい内容だったかもしれません。読む前と比べて、コレステロールに関してのイメージには変化があったでしょうか。
表題にあげた“コレステロールは敵か味方か”の問いですが、結論としては味方です。コレステロール自体は身体に必要な物質なのです。LDLコレステロールのまわりで変化があると敵になってしまうため、敵をつくらないよう予防に努めましょう。