~便秘には要注意~

正常な排便習慣とは・・・
 ■ 毎日~2日に1回は排便する。
 ■ 朝食後に排便の習慣がある。
 ■ バナナ状のやわらかめの便である。
 ■ 軽く力んでスムーズに出る。
 ■ 排便後はすっきりしている。

全てに当てはまっていることが理想の排便です!

まずは便が出る仕組みを見てみましょう。
便は大腸という消化管の一つでつくられています。

大腸の機能     
 ・  消化の機能はない。  
 ・  回腸から運ばれてきた粥状のやわらかい内容物を、大腸の筋肉を動かして肛門の方へゆっくりと運ぶ。  
 ・  運んでいる間に水分や電解質を吸収して便の形にする。  
 ・  適切なタイミングで排泄できるまでためておく。  
     
便の水分について    
 ・  腸管内に入る水分量(口から飲む約2L+消化液の分泌約7L=9L)はほとんど小腸で吸収される。  
 ・  回腸から大腸へは約1.5~2L入ってくるが、大腸でほとんど吸収されて便に含まれる水分量は約60~100mLになる。  
 ・  便に含まれる水分は、便の腸内の移動や排泄がスムーズにできるようにしている。  
     
直腸肛門の機能  
 ・  便保持:大腸運動によって運ばれてきた便を一時的にためておく。  
 ・  便排泄:便意を生じさせて適切なタイミングで十分に便を外へ出す。  
     
便に含まれているもの  
 ・  小腸で消化や吸収されなかったもの  
 ・  体の老廃物、腸の壁の古い細胞  など  

一過性単純性便
環境の変化(緊張、精神的変化、食事、生活習慣など)によりおこる一時的な便秘。
薬での治療はほとんど必要ない軽いもの。

慢性便秘
排便の回数が1週間に3回未満であったり量が少なかったりして、腸の中に便がたまり続けている。
便が硬い、強く力む、残便感がある、腹部の不快感があるなど排便が困難になっている状態。

慢性便秘がおこる仕組みにはさまざまな背景があります。


慢性便秘で多いのは、弛緩性便秘、けいれん性便秘、直腸性便秘です。
これらが同時に合わさっていることもあります。
この3つについては以下の表にまとめてみました。

  弛緩性便秘 けいれん性便秘 直腸性便秘
状態 結腸の動きが悪いので、便の移動に時間がかかり、便に含まれている水分が多く吸収されて便がかたくなる。 腸のけいれんが起こって強く収縮するので、便の通りを妨げる。便は少量でコロコロとしていて小さくかたい。 便が直腸にきても直腸が反応しにくくなっているので、便意を感じにくい。便が出口近くで長くとどまるので太く硬くなる。
症状 腹痛は少ない。
長引くとお腹がはってくる。
腹痛や不快感がある。
残便感がある。
腹痛は排便前に強く、排便後はなくなる。
過敏性腸症候群と関連がある。
便が太く硬いので、肛門が切れることがある。
なりやすい人 ●高齢者
●食事量が少ない
●女性(女性ホルモンの影響)
など
●ストレスが多い
●比較的若い年代に多い
●高齢の男性
●排便をがまんしすぎる
など
改善方法 ●朝食後の排便習慣をつくる。
●食物線維の多い食事をとる。
●水分を十分にとる。
●ビフィズス菌などの乳酸菌
●規則正しい生活
●朝食後の排便習慣
●運動
●刺激の強い食べ物(カレー、ワサビなど)は控える。
●朝食後の排便習慣
●食物線維の多い食事
●ビフィズス菌などの乳酸菌
効果のある
下剤
① 塩類下剤:最初に使い始める
② 大腸刺激性下剤:使いすぎないようにする
① 塩類下剤 ① 塩類下剤
② 大腸刺激性下剤

① 便秘と大腸がん発生の関係
便秘の放置によって大腸がんが発生するのではないかという考えがありましたが、現在のところはっきりと関係があるとは言われていません。
ただし、何らかの原因で大腸がんがあって、大腸がんによって腸が狭くなり便秘が起こっていることがあります。
したがって、便秘が大腸がんのサインの場合もあります。
★ 便秘 → 大腸がん? 大腸がん → 便秘 ○
② イレウス ― 高齢者は特に危険
便がたまって起こる病気として、イレウス(腸閉塞)があります。
腸内で便などの内容物がほとんど運ばれない状態(通過障害)になってしまいます。
腹痛や吐き気、嘔吐、食欲低下などの症状が出てきて、便が全く出なくなってきたりと重症化してくると脱水や身体の電解質のバランスが崩れて全身に異常が及んで生命が危険になる場合もあります。
③ 腸穿孔(ちょうせんこう)
さらに、便がたまって腸の壁に“あな”が開くことがあります。
腸穿孔といって、これも生命に危険が及び緊急の対応が必要です。
これらの病気はけっして頻度は高くありませんが、当院の医師が経験したことのある症例です。
ぜひ知っておいて便秘を甘くみないようにしてほしいと思います。

便秘薬のことを下剤と呼ぶこともあります。
[下(くだ)す:薬で体内のものを肛門から外へ出す。]
病院で処方されるお薬でよく使われているものをまとめてみました。



上記の他に乳酸菌などの整腸剤や漢方薬を使うこともあります。
また、ドラッグストアで買うことのできるお薬もあります。
商品名は処方薬と異なりますが、大腸刺激性下剤や浣腸剤が多く売られています。
アミティーザは処方薬にしかありません。

① 下剤の乱用や使いすぎ
特に大腸刺激性下剤は手に入りやすく、効果をすぐに実感できるため安易にたくさん使ってしまいがちです。大腸を刺激するということは無理矢理に大腸を動かしている状態です。一時的な効果で便秘自体が良くなっているわけではありません。
大腸を刺激する下剤をたくさん使いつづけていると、大腸は刺激があるのが普通の状態だと思ってしまって、刺激がないと動かなくなり、逆に刺激されることにも疲れて少しの刺激では動かなくなってしまいます。
これが依存の状態で、用量を増やさないと効かなくなってくるという悪い状態です。便秘の状態もむしろ悪くなってしまいます。
② それぞれにあった薬の選び方
下剤にはいろいろと種類がありますが、便秘の状態や体の状態によって使えるものを選ぶことが大切です。
妊婦や小児、高齢者などの便秘に薬を使うときにはより注意が必要です。

  便秘の特徴 塩類下剤 大腸刺激性
下剤
腸液分泌
増加
浣腸剤
妊婦 ホルモンバランスの変化や子宮が大きくなって腸を圧迫することで腸の動きが遅くなるために起こる。 ×
授乳中  
 
小児 腸内環境が未熟で整っていない。
環境の変化によるストレスなど。
×
高齢者 排便するための筋力の衰えや食事の量が減ってくることなどで起こりやすくなっている。

便秘を改善するためには、生活習慣の見直しや健康食品の活用から始めます。
それでも良くならないときには薬を利用したり、医療機関を受診した方が良いでしょう。

① 生活習慣を見直す
食  事 食事の量が少ないと排便するための十分な便がつくられません。
1日3食の食事が大切です。
食事をとると胃が動いて、それに引き続いて大腸も動くので便意がおこりやすくなります。
水  分 腸の中に水分が増えると便を軟らかくして量を増やします。
高齢者はのどの渇きを感じにくくなっていて、脱水になりやすくなっています。
こまめに水分をとるようにします。
排便のタイミング 朝食をとった後は強い便意が起こりやすいタイミングです。
便意がなくても朝食後にトイレに行く習慣をつくることで体が覚えて次第に便意が起こるようになります。
運  動 排便には腹筋などの筋肉を使います。
衰えないように、歩くことを意識するだけでもトレーニングになります。
運動の刺激は、腸にも良い刺激となります。
我慢しすぎない 我慢しすぎると、便の水分が少なくなって硬くなってしまします。
しだいに便意を感じなくなることもあります。
便意を催したときに、早めにトイレに行けるようにしておくことも大切です。
ダイエット 極端なダイエットは注意が必要です。
食事量が少なすぎたり、下剤の乱用をしたりなど便秘を悪化させやすくなります。

② 健康食品を活用する
食物繊維や乳酸菌など、便秘の改善に役立つ食品をとってみることも良いとされています。
どのようなものがあるか少し紹介します。

種 類 作 用 含まれる食品
食物繊維  腸で消化・吸収されない成分でそのまま便になるので、便の量を増やして柔らかくする。  キャベツなどの野菜、
 果物、きのこ、海藻など
乳酸菌  便秘には腸内細菌も関係し、悪玉菌が増えてくると大腸内の環境バランスが崩れて便秘になりやすくなる。
 乳酸菌は善玉菌の一つで、善玉菌が増えると腸内環境が良くなる。
 ヨーグルト
 (ブルガリアヨーグルト)
 など
ビフィズス菌  乳酸菌の一つで悪玉菌を撃退する作用や腸の動きを良くする作用がある。  ヨーグルト
 (ダノンビオ)
 など
グルコマンナン  こんにゃく芋からとれる食物繊維。
 グルコマンナンが腸内で水分を吸収して膨張するので便の量が増える。
 こんにゃく
オリゴ糖  腸内細菌の善玉菌の栄養素になる。
 食物繊維と似た働きがある。
 

③ 薬を使ってみる
生活習慣の見直しや健康食品の活用を実践しても良くならないときには、ドラックストアで買える薬を使ってみるのも一つの手です。まずは酸化マグネシウムなどの塩類下剤から始めるのが安全です。
見直した生活習慣は基本として続けながら、補助的にお薬を使っていくのがコツです。下痢などの副作用があらわれることもあるので、用量や使い方には十分注意しましょう。

④ 病院で診てもらう
どうしても頑固な便秘だと感じたときや、自分に合う薬が分からないときにはかかりつけのクリニックや病院に行きましょう。
便秘はまわりにもいるし当たり前なこと、体質だから仕方がない、便秘くらいで病院なんて・・・という人がいますが、便秘の放置は危険なことという認識を持ってほしいです。もしかしたら、単なる便秘ではなくて他の重大な病気が隠れている可能性もあります。